大阪高等裁判所 昭和49年(行コ)44号 判決 1976年2月24日
京都市左京区下鴨梅ノ木町六二番地
控訴人
正木啓一郎
右訴訟代理人弁護士
山田常雄
京都市左京区聖護院円屯美町一八番地
被控被人
左京税務署長
仲谷幸三
東京都千代田区霞が関一丁目一番地
被控訴人
国
右代表者法務大臣
稲葉修
被控訴人ら指定代理人
服部勝彦
同
秋本靖
同
川崎一
同
大槻福治
同
山下功
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取り消す。本件を京都地方裁判所に差し戻す。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張事実及び証拠関係は、つぎのとおり附加するほか、原判決事実欄記載のとおりであるから、これを引用する。
一、控訴人の主張
(一) 控訴人には、つぎのとおり、控訴期間内に再審事由を知ることができなかった特段の事情がある。すなわち、京都地方裁判所昭和四六年(行ウ)第一五号事件の判決正本は、昭和四九年一月二九日、同事件における原告(本件における再審原告、同控訴人)訴訟代理人奥村弁護士に送達され、翌三〇日、再審原告本人である控訴人に渡されたが、その際同弁護士は、控訴するかどうかは控訴人の方で決めるように、と告げた。控訴人は、この判決に不服であったが、役員をしている正木株式会社の染織物業が当事春物の最盛期にあたっており、しかも二月の決算期を控えてきわめて多忙であったことと、一方控訴することにより税務署の反感を買い事業がやり難くなる虞があるのではないかなどあれこれ考えていたこととのため、気になりながら判決書を読むひまがなく、同年二月一二日までの控訴期間を徒過して数日の後、ようやく判決書を読み、かつ、控訴代理人に相談するに至って、はじめて右判決に判断遺脱の再審事由があるのを知ったのである。
(二) 民事訴訟法第四二〇条第一項但書が適用されるためには、判断遺脱の再審事由を訴訟代理人ではなく当事者本人が知らなければならない。なぜならば、第一審訴訟代理人の権限は、実務的には第一審かぎりで新たな委任契約がなければ控訴審には及ばず、したがって、再審事由の知不知には権限のない訴訟代理人は標準にならないからである。知不知が訴訟代理人を標準として決せられることがあるのは、その了知により訴訟代理人が適切な処置をすることができる位置に置かれているためと考えられるからで、右の場合をこれと同一に考えることはできない。
(三) 特段の事情のないかぎり判決正本送達のときに判断遺脱の再審事由を知ったものとみなければならないとしても、ここにいう「判決正本送達のとき」とは、判決正本が訴訟代理人に送達された日時でもなく、また当事者本人に送達された日時でもなく、当事者本人が閲覧了知するに必要な若干の時間を経過した時を意味すると解すべきである。けだし、判決における判断の遺脱の中には、一見して明らかなものもあろうが、法律の専門家でない当事者本人が一読することにより必ず判明するものばかりでなく、本件のように弁護士に相談して初めて判る場合もあるからである。
二、被控訴人の主張
控訴人の主張する再審事由を知りえなかった特別事情は、控訴人本人が再審事由を知りえなかった事情であるから、訴訟代理人奥村文輔が判決正本送達時に再審事由を知ったと解することの妨げとはならない。そして、民事訴訟法第四二〇条第一項但書にいわゆる当事者とは、当事者の訴訟代理人をも含むと解すべきであり、訴訟代理人が判決の送達を受けた場合には、その訴訟代理人は判断遺脱の瑕疵のあることを知ったと認むべきであって、当事者本人がその事実の不知を主張することは許されないから、同項但書後段により本件再審の訴は許されない。
三、証拠関係
控訴人は、当審における控訴本人尋問の結果を援用した。
理由
一、当裁判所も、控訴人の本件再審請求を不適法として却下すべきものと判断するものであり、その理由は、原判決六枚目表五行目の「認められ」の次から八行目までを次のとおり変更するほか、原判決理由欄記載(但、原判決五枚目裏九行目に「続」とあるのを「読」と訂正する。)のとおりであるから、これを引用する。
「るところ、控訴人は控訴人が再審事由を知ることができなかった特別の事情があるとし て前記一の(一)のとおり主張するので、この点について考えるに、控訴人が控訴期間を経過するまで判決書を読まなかったとの事実についてはこれを認めるに足る証拠はないが、当審における控訴本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、昭和四九年一月三〇日ごろ前記訴訟における控訴人訴訟代理人の奥村弁護士から前記判決正本のコピーの郵送を受け、同時に電話で、「良く読んで控訴するかどうか自分で決めて下さい。」といわれたので、早速右コピーを読んだが、右判決には不服で控訴したいと考えたものの、控訴をすると税務署の反感を買って圧迫を受けるのではないかと恐れ、いろいろと悩んだためと、当時、控訴人が代表取締役をしている正木株式会社の業務である織物卸販売が春物の売出し時期に当っていて客の接待等に忙しく、また決算期や石油ショックが重なり非常にあわただしい時期であったことにより、控訴期間が同年二月一二日までとは知っていたが、ずるずると日を送って控訴期間を徒過してしまい、期間経過後四、五日してから、右判決に対する不服申立の方法をとることを決意し、右奥村弁護士の示唆により控訴代理人に相談した結果、本件再審の訴を提起するに至ったものであることが認められる。しかしながら、右事実は、前記訴訟における控訴人の訴訟代理人であった奥村弁護士はもとより当事者本人である控訴人自身も、控訴期間内に、前記判決正本ないしそのコピーを読み、これを検討して判断遺脱があるかどうかを知りえたことを推認させるものであり、これを右弁護士または控訴人が再審事由を知りえなかったことを推測させる特段の事情とみることのできないことは明らかである。」
二、したがって、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用は民事訴訟法第九五条、第八九条により控訴人の負担として主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 喜多勝 裁判官 藪田康雄 裁判官 楠賢二)